現代人は退化した!?昔の人は経血コントロールが出来ていたって本当なのか、医学的に考えてみた
一般社団法人 日本おまたぢから協会の手によって、一部のインターネット上ではもうすっかり昔の人は経血が自在にコントロールできていたかのように語られている現在、果たして本当にそうだったのか、何でおまたぢから協会みたいな、女体に関するうさんくさい団体はちらほらあるのにちんこぢから協会はないんだよ!!っていう個人的な怒りから調べてみました。
「昔の人は経血を我慢してトイレで経血を出していたのよ。」
「へぇ~、昔の人ってすごいですね!」
「現代では生理用品の品質が発達したから、経血を我慢する必要がなくなっちゃって、経血をコントロールする力も退化しちゃったんだけどね。」
「う~ん、となると、血が止まらない~っていうのは現代病とも言えるのかなぁ。
便利な世の中になって人間の力が衰える、贅沢な病ですね。」
ちょっとまって!!!!
「あなたは!?」
「本当に昔の人は経血をコントロールしていたのかしら?はたまた現代でも経血はコントロールすることが出来るのかしら?医学的な視点で考察していくわ!」
そもそも月経(生理)ってなぁに?
まずは月経のしくみを知らないと話が始まらないから、小中学校の保健体育で習っているとは思うけれど簡単に解説しますね。
月経とは毎月起こる子宮からの出血のことです。
女の人の体は赤ちゃんを産むために子宮内膜っていう、血で作ったふかふかのお布団を作っていて、だいたい1か月ごとに古いお布団を捨てて、新しいお布団に作り替えています。
古い布団…っていうのが経血ですか?
そうですね。だいたいその布団の交換に3日から7日ほどかかることが多いみたいですね。
月経が始まってから終わるまでに3~7日かかるってことですか。
ええ。
なんか小学校のころの保健体育に書いてあった気がします。
あの頃はなんか恥ずかしくてあんまり見れなかったからうろ覚えだけど…
月経期の経血の量はもちろん女性により個人差があるけど、だいたい19~252gの間、平均で82gとのデータがあります。
花王 生理サイクルにおける快適性研究 生理実態 (経血量変化・装着時間・吸収量)
(花王調査 女性20名 集計数426枚)
82gっていうとヤクルト1本が80mlだから、一度の月経期にヤクルト1本くらいの血が出るってイメージしてもら分かりやすいんじゃないでしょうか?
3~7日かけてヤクルト1本分ですか。あれ、なんか思ってたより少ないなぁ。
まぁ血はショッキングな色ですから、少量でも見た目的には結構インパクトが強いですし、大量に出てるように見えるという錯覚もありますね。
経血が溜まってる感覚はあるんですか?
おしっこやうんちみたいに経血が溜まってる感覚っていうのはあるんですか?
子宮口が狭いとか、レバー状の血が剥がれ落ちて排出するのに時間がかかるとか、何らかの理由で子宮口からうまく血が流れなくて血がたまることはあって、なんとなくおなかが重いとか、しんどいような感覚はあるけど、便意や尿意のような「もれちゃうもれちゃう~!」っていう感覚とはまた違いますね。
末期ガン患者の、腹に腹水がたまって苦しいみたいな感じですか
まぁ自力で排出できないという点ではその感覚に近いかもしれないですね
でも知り合いの女性が「今動くと経血もれる!!」って言ってたのを聞いたことあるから、やっぱり経血はある程度コントロールできるんじゃないですか?
急に体勢を変えたり、おなかに圧をかけたりすると血があふれ出しやすいというのはあります。
小さく穴をあけた水風船に手で圧力をかけるとさらに水が勢いよく出るのと同じですね。
その件については『自称経血コントロール女の真実』の項目で詳しく説明しますね。
経血コントロール女…
うんちやおしっこを出すのは自分でコントロール出来るんだから、経血も訓練すればコントロール出来るんじゃ…?
これについてはまず肛門と膀胱、子宮、それぞれの臓器の仕組みの違いについて見ていきましょう。
なぜうんちやおしっこは我慢できるのかというと、うんちを出す穴とおしっこを出す穴には『横紋筋(おうもんきん)』という、自分の意思で動かすことのできる筋肉があるからなんですね。
それに対して子宮、膣壁は『平滑筋(へいかつきん)』で出来ています。平滑筋は自分の意思では動かせない筋肉なんです。
えっ!自分の意思で動かせない筋肉なんてあるんですか!?
血管や胃や小腸のような、わかりやすく言うなら『壁』の部分の筋肉って事で伝わるでしょうか
なるほど、確かに、寒くて血管が縮むとか、ごはんを食べて胃が活発に動き出すことはあるけど、自分の意思で「よ~し、ちょっと血管を収縮させるか~」とか「今日は早くご飯を消化させたいから胃を活発に動かすか~」ってのは出来ないですもんね。
ここまで語って、
「いや!私は膣を締め付けることができますけど!?」
って思ってる女性の方、結構いると思うんですけど、それ、実はケツの穴締めてるだけなんです。正確に言うと恥骨直腸筋、まぁうんこ止める筋肉ですね。
ああ、男で言うなら勃起したとき、ちんこの下のほうにある筋肉にグッと力を入れるとちんこがピョコピョコ動くみたいな感じですか。
ちんこ自体に筋肉はないけど動く的な。
筋肉ってのは繋がってますから、うんこ止める筋肉に力入れるとそれの近くにある膣も連動してうごくって訳です。無論ケツの穴の筋肉動かしたところで経血をせき止められるほど収縮しないし、万が一にもできてたとしたら直腸つぶれてます。
はえ~…
ん!?でも、ぼくたちが赤ん坊の頃はうんちおしっこ垂れ流しだったじゃないですか!!
小さいころに訓練した結果、トイレまで我慢できるようになったんだから、膣や子宮だって訓練すれば自在に動かせるようになるんじゃないですか!?
ん~…無理ですねぇ
え、全否定ですか!?
赤ん坊はうんこおしっこ垂れ流し、って部分がそもそも間違っているから、そこからひも解いていきましょう。
赤ちゃんであっても動物であっても、経血のように随時うんちやおしっこがたれ流れてるわけではないんですよ。まぁ少し考えてみれば当たり前だけど、生物はある一定の間隔で排便や排尿をしています。
膀胱や直腸にある程度排せつ物がたまると、その情報は脳の『排泄中枢』という部分に送られるのです。
だいたい成人だと尿意は膀胱に尿が150ml~200ml溜まったあたりから、便意は直腸に150ml程の便が溜まると起こります。
排尿や排便の仕組みは脳と繋がってるんですね~
脳が「まだおしっこ(うんち)するにはふさわしくない!」と判断すると、運動神経を介して外尿道筋(うんちの場合は肛門括約筋)という、排せつ物をせき止めてる筋肉をきつく締め付けて排尿できないようにします。
だから普段、意図的に我慢しなくてもある程度の尿や便は溜めておくことが出来るのですよ。
へぇ。と言うことはもともと溜めるように作られてるんですね。
そしてある程度便や尿がたまって、脳にその情報が伝わったところで尿意、便意を感じ、そこからさらに「よし、ちょっくら踏ん張るか」と自分で意識して筋肉を動かすことで初めて排泄・排尿しているって訳です。
はたから見ると「どこかしこ構わずうんこしやがって、垂れ流しかよ…」って見えるけど、便意、尿意が無いわけではないんですね。
ええ、一方子宮にはそういった経血を一定量溜める構造もなければ、経血がたまったとして、それを脳に伝えるような神経構造がないので、便意、尿意のように「経血意」みたいなものを感じることはありません。
もし便意や尿意のような感覚で経血を排出するには『経血排出中枢』なるものが脳に存在していなければできないわね。
なんてこった。単純に筋肉を鍛えればいいと思ってたけど、脳の仕組みからして変えなければいけないことだったのか…
「昔の日本女性は着物を着ていたから、着物の帯や腰巻きで骨盤を締め付けていて、それだから経血が出なかったのよ!!」
あなたまだいたんですか!?
その説もわりと耳にしますね。
昔の人は着物を着ていたから経血を止めることが出来た!?
着物すげー!!!!やっぱり日本文化は世界に誇れるものですね!
さっそくKIMONO文化を世界に知らしめなくては!!
そこは落ち着いて、まずどの程度骨盤に圧力をかければ子宮口や膣が塞がるか考えてみましょう。
基本的に骨というのは手で押さえたり、布で押さえたりする程度で動きません。
何を言っているの!?女性は赤ちゃんを産むときに骨盤が開くのよ!?
正確に言うと骨盤自体が開くのではなく、骨盤の結合部分である恥骨結合っていう軟骨部分が緩むのです。とは言ってもJINSの形状記憶合金メガネみたいに伸縮自在ってわけではなく、妊娠中にだんだんと時間をかけて広がっていって、だいたい平均して4~5㎜広がります。
え、そんな程度なんだ
骨自体は動きませんし、だいたい赤ちゃんを産むときに骨盤がくぱぁ~って開くような構造なら世の女性はそんなに出産に苦しんでないです。
でも巷では産後の骨盤矯正は必須みたいな風潮あるじゃないですか。
整体師のマッサージで骨盤が動くんなら骨盤を締めたりすることも可能なんじゃないですか?
マジで!?
詳しく説明すると経血コントロールの話題からそれるから、接骨院の院長が語る 骨盤矯正のウソ・ホント辺りでも読んでください
いや、擁護するわけじゃないけど、昔中国で纏足(てんそく)っていう文化があったじゃないですか。
昔の人はずっと着物で生活していたわけだから、ごくごく小さいころから腰にきつく帯を巻いていたら骨盤が閉じるんじゃないですか?
実際の症例が見当たらないから検証が難しいけど、首長族や唇にでっかい皿入れる部族みたいな感じで、幼少期から強大な圧力をかけて人工的に身体奇形を作り出すっていうのも可能性としては確かにありうる話ですね。
じゃあ実際幼少期から、子宮を圧迫するくらいに骨盤を締める生活を送っていたとしたらどんな体になるかシュミレーションしてみましょう。
骨盤を締めることにより骨盤に接続する足の付け根の関節の位置も内側へと捻じ曲げられるはずなので
超内股人間になることが予想されますね。
歩きづらそう
ていうか歩けないですね
そして骨は先ほども言ったようにJINSメガネのフレームみたいにぐねぐね曲がらないから、こうして長年矯正された骨は着物の帯をほどいた瞬間にボワンって広がるわけでもないし、思い通りに経血を排出するどころか、そもそも経血が外に排出されずに子宮内に溜まり、感染症を起こして死に至ることが予想されますね。
もはやコントロールとかいう次元じゃなくなってきた…
纏足も足の骨を人工的に捻じ曲げるので、かなりの痛みを伴うものなのですが、骨盤を捻じ曲げるとなるともう尋常じゃないぐらいの痛みで、歩行どころか起き上がることすらままならないのではないでしょうか。
と、ここまで語っといてあれですけど、着物の帯や腰巻きってどこで締めるかご存知ですか?
えっ、まぁこんな感じで胸の下あたりですよね
骨盤締めてなくないですか?
確かに
着物の帯や腰巻で人工的に圧をかけているという説にならうのならこういうことになりますよね。
↓
なんか俺の知ってる着物と違う…
自称経血コントロール女の真実
でもインターネットには経血コントロールができると自称する人をごくごくまれに見かけますけど、それはどうなんですか?
そうですね、具体的な個人のSNSアカウントやブログを引き合いに出すとその人たちに夜道で待ち伏せされて背中を刺されかねないから伏せるけど、「経血コントロール」で調べてHITした人たちにはいくつか共通点を見つけることができました。
・「昔の人」みたいにはコントロールできないけど、“多少は”コントロールできる
・トイレで前かがみになり、おなかに力を入れると血があふれてきて、そのあと数分~1時間程度は下着を汚さずに過ごせる
・溜まってきたかな~?とおもったらすぐさまトイレへ行き、力む。1時間に1回くらいの頻度でトイレへ行く。
・夜中寝ているときは経血が出ない
・朝起きたらまずトイレへ行って経血を排出
・完全ではなく“ちょっと”失敗するときもある
いろいろツッコみたいところが満載なんですけどまずどこから掘り下げていけばいいんでしょうか。
冒頭でもちらっとお話しましたけど、体の圧が変わったり、体勢を変えたりすると血がドロッとあふれやすいっていうのは月経がある女性なら誰でも体感していることだと思います。
指を切ったとき、心臓より上に手を上げてればあんまり血が流れてこないけど、下にやるとぼたぼた垂れてくるみたいな感じですか。
そうですね。そして1回の月経期に出る経血量は5~7日でヤクルト1本分、多い日で1日30g(大さじ3杯)と考えると、小便程の勢いはないし、じわじわと時間をかけて出てくるものだから、1度中に停滞していた血を出したなら、数分~出血量が少ない時で1時間程度はきれいなパンツを保てますよね。
さっきの指切った例で言えば、手で傷口を圧迫して血を出せばしばらくは溢れてこないってのと同じ感じですかね。
無論、経血の量が少ないほど血がパンツにしたたり落ちるまでの時間は稼げるので、経血量少ない人ならなおさら時間を稼げるんじゃないでしょうか
ふむふむ、じゃあ数分~1時間程度の感覚でその、傷口に圧をかけてドロドロと血を出せばある程度パンツを汚さずに済む…と。おお、コントロールしてるじゃん…
って、数分から1時間程度おきにトイレに行かなきゃならないって、そんなんしてたら仕事できないじゃないすか!!!
僕がこの前牡蠣食べて当たった時よりもトイレに行ってる…
これを本人の中でコントロール、と呼ぶなら、そうなのかもしれないですけど、ちょっと苦しいですね
夜中に月経が漏れないっていうのは何でですか
起きているときより寝てるとき、もとい寝そべった体勢をとってる時って経血が出にくいんですよね。
そうなんですか?
ペットボトルを例にするとわかりやすいけど、飲み物の入ったペットボトルの飲み口を真下に向けてるときはダバダバと中身がこぼれ落ちるけど、横向きに床に置くと飲み口より下になってる部分は飲み口からあふれ出ないですよね。
特に“子宮後屈(正式には子宮後傾後屈症)”の人、簡単に言うと子宮の位置が後ろにある人はそうなりやすいですね。
まぁ月経中の子宮は脳から出されるプロスタグランジンという物質によってある程度収縮運動をするので、横になってれば絶対漏れないって訳でもないのですが…。
ちなみに子宮後屈って言葉は単に子宮の形を意味する言葉であって、一般的には病気とは見なされていませんし、これ自体は治療の必要性はありません。人によっては生理痛や腰痛の原因となることもありますが、子宮後屈だからと言って必ず生理痛がひどくなるとかいう事でもないです。
ちんこが右寄りか左寄りかみたいな感じですか
いやそれはちょっとわかんないですけど…
寝姿勢から起き上がったときに経血が垂れてきやすいので、「朝起きたらトイレで経血を排出♡」ってのも、自分でコントロールしてるようで、ただ単に姿勢の変化による漏れなんですよね。寝てる間に溜まった経血が朝起きたら溢れてくるのが、寝てる間に膀胱に溜まった小便を朝起きてトイレで排尿するみたいなのとイメージが似てるので、「私は寝てる間は経血を我慢できる」と錯覚するのでしょう。
「完全ではなく、ちょっと失敗することもある」っていう言葉は、じゃあコントロールできてないじゃんって感じで議論の余地もないですね。
おしっこに例えるとこんな感じでしょうか
「数分から数時間おきにトイレに行けばだいたいコントロールできますね。たまにおしっこ漏れることもありますけど、おおよそ自分でコントロールできるのでパンツは履いてないです。」
うーん、素直にパンツ履いてほしいですね
昔の人はあまり栄養をとれなかったから経血量が少なくてナプキンなんかなくても過ごせてたのよ!!!ナプキンは贅沢品よ!!
もはや経血コントロールの話から論点ずれてますけど、ナプキンを使わなくてもいいほど出血量が少ない、というほどの栄養不足に陥っている場合、子宮だけではなく体全体がもう重篤な状態にあるので経血がコントロールできる!なんて喜んでないで早めに病院に行ってほしいですね。
とまぁ、いままでの考察をまとめると、もし昔の女性が経血をコントロールできる体であったとしたら、こういう構造をしていたのだろうと考えられます。
昔の人すげぇ!!!!
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現代でも人体の構造はまだまだ未解明な部分がたくさんあるがゆえに、巷にはさまざまな新興宗教やオカルト医療がはびこっていますね。
特に女性の体は、子どもを産むという構造から、なんとなく神秘的に見えるので、自然派信仰やロハス思想に倒錯する人には大好物のエサなのでしょう。
しかし、ナプキンを使う女性を「おもらし」と辱めて、月経コントロール講座で受講料を稼ぐ一般社団法人 日本おまたぢから協会に所属していた助産師が、当講座で布教している「新生児にビタミンKを投与するのは自然に反する!」という情報を真に受けて、新生児にビタミンKシロップを投与しなかったことにより乳児を死亡させた事件もありました。思想の自由が認められているとはいえ、こうした誤った知識は人を殺すこともありますから気を付けたいものです。